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本の紹介 – 中野光子著『公認心理師・臨床心理士のための高次脳機能障害の診かた・考え方』

2023/04/20

公認心理師・臨床心理士のための高次脳機能障害の診かた・考え方(中野光子著)

心理検査を用いたアセスメントの基礎について学びたい方にもおすすめしたいです。

はじめに

こんにちは、札幌カウンセリングオフィス雪花(札幌市琴似、北区、東区、西区、白石区と、その他の区)の菅原奈緒(臨床心理士・公認心理師)です。

雪花のサービスのひとつに【心理検査】があります。正確には【心理検査を用いたアセスメント】なのですが、わかりやすいように【心理検査】としてあります。

アセスメント、心理アセスメント、臨床(的)アセスメント、心理査定…、言い回しが微妙に異なりますが、意味するところは極端に大きくは変わらないでしょう。

ですが、【心理検査】と【アセスメント】はイコールではありません。

コーチン(Korchin,S.J.)は著書『現代臨床心理学』第6章臨床的アセスメントの本質と目的において、次のように述べています。

臨床家が下さなければならない決定の多様さたるや、実に限りがないものである。臨床的アセスメントというのは、有効な諸決定を下す際に必要な、患者についての理解を臨床家が獲得していく過程を、指すのである。

Korchin,S.J.

心理専門職が、それぞれの現場で、患者、利用者、クライエントにかかわるとき、有効な支援を行うために欠かせない過程であるということです。そこでその都度、心理検査を用いるということはないわけです。

本との出会い

今回紹介する本との出会いは、現在は絶版となっている『高次脳機能診断法』(中野光子著 山王出版1996)とのそれが先にありました。

まだ私が心理専門職として駆け出しのころ、ある研修会で指導してくださった先生に次のような助言を受けたのです。

「これから高齢化社会がくるので、認知症についてよく知って、アセスメントに必要な心理検査を用意しておいて、使えるように勉強しておくといいですよ」

前職は精神科病院でしたので、高次脳機障害(脳に何らかの損傷が起きることによって生じる障害)のある方の治療を専門にはしていませんでした。ですが、認知症については将来的にはどうなるかわからないと私も同意するところでした。

といいましても当時勤務していた病院には、心理専門職は私一人しかいません。どのような検査をそろえて、どう勉強したらいいのかわかりませんでした。

困っていたところに、たまたま次のような勉強会の案内がきました。中野光子先生ご主催の【横浜高次脳機能障害診断法研修会】が札幌で開催されるというものでした。案内には、実際の心理検査にふれながら、認知症と高次脳機能障害の診断法について学ぶことができるとありました。「これだ!」と思った私は指定されたテキストである『高次脳機能診断法』を読み、研修会に参加しました。

本について

『高次脳機能診断法』は中野先生の長年の臨床経験からの高次脳機能障害診断法と自験例とが紹介されています。

が、『公認心理師・臨床心理士のための高次脳機能障害の診かた・考え方』の序にも『この世界を知ってほしいとの気持ちで筆者の症例を紹介することが主目的で書いた本であり、診断法そのものは前半にしか書いていない。にもかかわらず、実際にアセスメントを実施している心理師(士)の立場で具体的な方法論を書いた著書が他になかったことから、読者から「この本を頼りに20年間何とか臨床をやってきました」などと言われたこともあり、申し訳ない気持ちでいっぱいになったものである』と、書かれているように、高次脳機能障害のアセスメントの手引きとなるような本は当時なかったのです。

わたしは年1回開催される研修会に参加しながらそこで学んだことと『高次脳機能診断法』を頼りに、いつかの助言のように医師からオーダーされるようになった認知症のアセスメントの業務に取り組むようになりました。

そして2021年『公認心理師・臨床心理士のための 高次脳機能障害の診かた・考え方』が風間書房から出版されました。

『本書は医療現場で働く心理師(士)やST、PT、OTなどcomedicalの方々、これからそのような仕事に従事する事を目指す学生さんを対象に、アセスメントの実際をできるだけ具体的に提示することを目的とするものである』と、中野先生は本文で述べられています。

紹介した理由

中野先生が本を書かれた本来の目的とは違うことを申し上げてしまうかもしれませんが、私は次の理由からもこの本をおすすめしたいです。それは心理検査を用いたアセスメントの基礎について学びたい方にもおすすめしたいということです。

先に述べたように、心理専門職の業務にアセスメントは欠かせないものですが、そこで常に心理検査を用いるわけではありません。心理検査は、アセスメントにおいてそれを施行する明確な目的があるときに行われるものです。

『公認心理師・臨床心理士のための 高次脳機能障害の診かた・考え方』には、目的を明確にしたうえで、それにあった適切な心理検査を選び、被検者である患者さんにとってなるべく負担が少なく利益になるアセスメントを行い、心理検査の指示をする依頼者である医師の依頼にこたえる報告をすることの重要さが書かれていると思います。

これは、すべての心理検査を用いるときに共通していえることではないでしょうか(現場によって依頼者がかわることはありますが)。

おわりに

雪花で行う【心理検査を用いたアセスメント】でも「目的を明確にする」ことを重視しています。心理検査そのものの料金以外に【初回面接料金】が設定されているのはそのためです。

心理検査をご希望されたご事情、これまでの経緯をしっかりおききした上で、適切と考えられる心理検査(場合によっては心理検査以外の方法)を用いたアセスメントについて提案させていただきます。


引用文献・参考文献

  • 中野光子著『公認心理師・臨床心理士のための高次脳機能障害の診かた・考え方』風間書房2021年
  • 中野光子著『高次脳機能障害診断法』山王出版1996年
  • S・J・コーチン著 村瀬孝雄監訳『現代臨床心理学』弘文堂1980年
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