columnコラム

コロナ禍とバーンアウト その1

2023/05/06

アフターコロナ

こんにちは、札幌カウンセリングオフィス雪花(札幌市琴似、北区、東区、西区、白石区と、その他の区)の菅原奈緒(臨床心理士・公認心理師)です。

5月8日から新型コロナウィルスの感染法上の位置づけが新型インフルエンザと同じ5類に移行することで、「アフターコロナ」「コロナ後」という言葉を以前よりも耳にすることが増えてきてはいないでしょうか。

雪花では5類に移行した後も、サービスをご利用いただく際にご協力をお願いしたい感染対策を変更することはしない予定です。

法律上の扱いが変更されたとしてもウィルスの性質が急に変わったり、後遺症などの治療法が確立されるわけではなく、対面でのサービスをなるべく安全にご利用いただくために、感染対策は今後も必要である、という判断からです。

私は「アフターコロナ」は年単位で先になるだろうと考えています。

医療従事者だったころ

雪花について】にもあるように、雪花の代表心理士の前職は精神科病院でした。心理専門職であると同時に医療従事者でした。コロナ禍よりも前、インフルエンザのシーズンになると職員と患者さんの予防接種が行われ、マスクの着用、病棟との行き来および外出の制限など、流行の状況に応じた感染対策が行われていました。ですので、感染対策というものが必要なものであることは頭では理解していました。

ただ、医療従事者として命を守るためにという緊張感をもって感染対策を行ったのは、私の場合はコロナ禍に入ってからだったと思います。心理専門職である私は、オンラインを使用しないのであれば、対面でないと自分の仕事ができません。ですが、カウンセリングにしても心理検査にしても、ソーシャルディスタンスを厳守すると、お互いの声がきこえず顔がみえず、ということになってしまいます。対面でより安全な方法でカウンセリングや心理検査を行えるよう、科学的な感染対策について調べ、次善の策を検討し、実際に行い、もっといい方法はないかをまた考えて、ということを繰り返していました。

私は、医療の現場で感染対策において中心的な役割を果たす看護師さんたちが、どれだけ苦労して、患者さんの命と健康を守るために、専門職として責任をもって仕事をしているのかを、コロナ禍に入ってから考えるようになりました(考えるだけでなく、コロナ禍になってからどれだけ現場が大変なことになっているかは耳にしていました)。

心配だったこと

医療従事者のバーンアウトおよび大量離職を、懸念し予想していた人たちは少なくないでしょう。私もそうでした。もともと医療現場は、診療報酬のマイナス改定などの影響で、求められる仕事の量と質に対して、人とモノのリソース不足の問題が深刻でした。そこに新型コロナウィルスの感染拡大が起き、それへの対応が求められれば、現場は破綻しかねないと私は考えていました。よしんば現場が破綻しなかったとしても、それは多くの医療従事者、現場のスタッフ、患者さんたちの大きな負担があってのことになるだろうと。その時はそれでしのげたとしても、負担がかかり続けることで心身の不調が起きることもあるだろうと。

バーンアウトについて①

バーンアウト(燃え尽き症候群)は1970年代に登場した概念ですが、一過性の流行にとどまることなく半世紀以上たった今も学術的な研究のテーマとして取り上げられています。アメリカの心理学者フロイデンベルガー(Freudenburger,H.J.)が提唱しました。

フロイデンベルガーはドイツ生まれでナチスドイツの迫害から逃れるためにアメリカにわたり、働きながら通った大学の夜間の講座で、人間性心理学の代表的な存在であるマズロー(Maslow,Abraham H.)と出会います。

マズローに影響を受けたフロイデンベルガーは心理学を学び博士号を取得、個人開業をし大学で教鞭もとりながら、1970年代にニューヨークで薬物依存やホームレスの人々のための無償のクリニックに無給で勤めてもいました。そこでは、薬物を乱用したことで心身に取り返しのつかない影響を受けた人たちの末期の無感動で無気力な状態を“burn-out”と表現したのだそうです。

フロイデンベルガーは、そのクリニックで、高い理想を抱き熱心にボランティア活動に従事する若者たちが燃え尽きるように活力を失う姿を観察し、“burn-out”の語を用いました。そこには、進行していく感情的な疲弊、動機の喪失、コミットメントの低下がみられたのです。

バーンアウトは、はじめは人を相手にサービスを提供する仕事をする人々に起こるものと考えられていました。しかしその後の研究で1980年代には、対人サービス以外の分野で働く人々にも起きうることがわかってきました。

参考文献

  • 心理臨床大事典 培風館1992年
  • 北岡和代 バーンアウトの概念変遷:どこから来て、どこへ行こうとしているのか

 Journal of Wellness and Health Care Vol.41(1) 1~11 2017

  • 久保真人 バーンアウト(燃え尽き症候群)―ヒューマンサービス職のストレス 日本労働研究雑誌 特集 仕事の中の幸福 No.558/January 2007
  • フロイデンバーガー,ハーバート著 川勝久 訳Best of business会社と上司のせいで燃え尽きない10の方法―「バリバリな人」ほど失いやすい生き方のバランス 日経BPM(日本経済新聞出版本部)2014


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