columnコラム

本の紹介‐中野光子著『公認心理師・臨床心理士のための 高次脳機能障害の診かた・考え方』その2

2023/04/22

診断、心理検査、アセスメント

こんにちは、札幌カウンセリングオフィス雪花(札幌市琴似、北区、東区、西区、白石区と、その他の区)の菅原奈緒(臨床心理士・公認心理師)です。

雪花のサービスのひとつ【心理検査】のページには、次のような説明文があります。

心理検査のみで精神疾患や発達障害などの診断はできかねますが、結果を参考にその可能性について検討できることもあります。

「どうして検査をして診断ができないの?」と不思議に思う方もおられるかもしれません。

『公認心理師・臨床心理士のための 高次脳機能障害の診かた・考え方』から引用します。

高次脳機能障害の診断は医学的診断であり、医学的診断を行う権限を持つのは医師である。

公認心理師・臨床心理士のための高次脳機能障害の診かた・考え方

雪花は医療機関ではなく医師がいません。そのため、雪花のような場で行った心理検査だけでは診断には結びつかないのです。

「じゃあ、心理検査は診断に役立たないの?」

そんなことはありません。また引用します。

多くの医療の現場では医師の依頼に基づき心理師(士)、言語聴覚士、作業療法士が客観的な尺度を用いて症状の特性や重症度についてアセスメントを行い、情報を医師に提供している。それらの結果と医学的情報を総合して医師が最終的に診断する。アセスメントと言う用語は検査の成績評価のみを意味するのではない。検査施行中の行動観察やADL、また仕事や社会性に関する情報をも加味して総合的に行う行動評価であるが、高次脳機能障害が対象の場合は診断に限りなく近い。心理師(士)は依頼者である医師が診断しやすいよう情報を提供することが仕事である。

公認心理師・臨床心理士のための高次脳機能障害の診かた・考え方

このように、(特に高次脳機能障害の診断においては)医学的診断における心理検査を用いたアセスメントは重要な役割を果たすものです。

『公認心理師・臨床心理士のための 高次脳機能障害の診かた・考え方』は、どうしたらそのようなアセスメントをすることができるかについての、優れた手引書です。

『第2章 アセスメントの実際』だけでも、心理検査を業務とする方に読まれることをおすすめします。検査の施行と結果の算出がアセスメントのすべてでなく一部であり、アセスメントという過程を経るには他にも学んで身に着けるべきものが多くあることがわかります。また、自身のアセスメントのやり方を振り返る機会にもなるでしょう。

心理師(士)による心理検査を用いたアセスメント

アセスメントと言う用語は検査の成績評価のみを意味するのではない。という一文には文字通りの意味だけでなく「検査を施行して結果を出すだけで終わるのでなく、アセスメント(高次脳機能障害のアセスメントにおいては限りなく診断に近い)ができなくてはいけない」という、心理専門職としての筆者の考えがこめられているように思います。

また、この本でのアセスメントは検査の場面にとどまらず、医師からの依頼を受けたところから始まるものです。依頼の目的を理解し、被検者(患者)に会う前からできる限りの情報を集め、必要かつ最小の負担ですむ適切なテストバッテリーを組みます(検査は販売されているものとは限りません。障害を客観的に示すことができる作業も広い意味での検査となります。そして本文にありますが最終的なバッテリーが決まるのは被検者と実際に出会う面接場面です)。

目的にかなう心理検査を選択できるには心理学を体系的に学んでいることが必要です。他にも本文に『高次脳機能障害の診断は心理学でいう広い意味での行動(behavior)評価を行うことである。』とあります。『公認心理師・臨床心理士のための 高次脳機能障害の診かた・考え方』は心理専門職だけでなくコメディカルを読者として書かれたものですが、心理学を修めた心理専門職であるからできるアセスメントがあるということを、筆者は伝えたいのではないでしょうか。

『高次脳機能診断法』との違い

1996年の前著『高次脳機能障害診断法』にまったくなく『公認心理師・臨床心理士のための 高次脳機能障害の診かた・考え方』にあるのは『第5章所見の書き方』です。第5章は5ページというごく短い章ですが、筆者が創作した所見が掲載されています。

「筆者の所見がみたい」という長年の要望にこたえて書かれた章だそうです。『こんな感じで書いていますという程のもので決してモデルではない。読者はこれをたたき台として各自工夫してより良い所見を書いて欲しい』と本文にはありますが、はじめて読んだとき「簡にして要を得る」というのはこのことか、と、ため息が出る思いでした。

所見にたどり着くまでの手間暇をまったく伺わせず、医師の依頼にこたえることと、被検者(患者)の利益を第一にしたとき、たどり着くひとつの形として見事としかいいようがありません。

雪花での心理検査

先に述べたように雪花は医療機関ではないため、診断のための心理検査を用いたアセスメントは行っておりません(通院されている方の治療や診断の参考に心理検査の結果をご利用していただくことは可能です)。

また、検査を依頼してくるのは医師でなく、心理検査を受けることをご希望されたご本人というのが大半になるでしょう。ご希望される方は「知りたいことがあるのでこの検査を受けたい」と、具体的な検査名をあげられることもあるかもしれません。

雪花では、まずその検査をご希望された経緯、ご事情をお伺いするところからアセスメントを始めます。「もう受けたい検査は決まっているのにどうして?」と思われるかもしれませんが、お話を詳しくお伺いすることで、心理検査をご希望される方にとって、できる限り負担が少なく役に立つアセスメントができるようにです。

私は前職である精神科病院を離れてからも、この本を時折開きます(この先、雪花に高次脳機能障害を持つ方が訪れることがあるかもしれません)。

「心理検査を受ける方にとってそれがどのような体験となるのか、どうしたらアセスメントの目的にかなうようにでき、少しでも負担を減らし利益を増やすことができるのか」ということについての、筆者の知恵と工夫がわかりやすく書かれており、自然と自分のやり方やありようと照らし合わせ、何か工夫できるところはないか、もっと勉強したほうがいいことは?などについて検討することができるからです。


引用文献・参考文献

  • 中野光子著『公認心理師・臨床心理士のための高次脳機能障害の診かた・考え方』風間書房2021年
  • 中野光子著『高次脳機能障害診断法』山王出版1996年
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