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「眠れない」が続くとき|「眠れないつらさ」をどのように考えるか
2026/09/07
ごあいさつ
こんにちは。札幌カウンセリングオフィス雪花(札幌市西区琴似)の菅原奈緒(臨床心理士・公認心理師)です。
9月に入り、札幌では朝晩を中心に少しずつ秋の気配がみられるようになってきました。暑さがやわらぎ、ほっとする頃になって、夏の間にたまっていた疲れが出てくることもあります。また、これからは昼夜の気温差も大きくなり、心身の調子を崩しやすい季節でもあります。
心身の調子を考えていく上で、睡眠は欠かすことのできないものの一つです。
前回のコラムでは、「睡眠美容」という言葉とともに睡眠薬が紹介されていることについて、精神科病院での勤務や、その後、必要に応じて精神科医療と連携しながら相談をお受けしてきた心理職の立場から、そのことへの違和感について考えました。
今回はそこからもう少し話を進めて、「眠れない」ということによって生じるつらさを、どのように考えたらよいのかについて取り上げます。
「眠れない」ことと不眠症
なかなか寝つけない、眠っている途中で何度も目が覚める、朝早く目覚めてしまい、その後眠ることができない。こうしたつらい経験をしたことのある方は、少なくないのではないでしょうか。
しかし、「眠れない」ということと、不眠症であるということは、必ずしも同じではありません。
厚生労働省の健康情報サイト「健康日本21アクション支援システム」では、不眠症について、寝つきが悪い「入眠障害」、眠りが浅く途中で何度も目が覚める「中途覚醒」、早朝に目覚めて二度寝ができない「早朝覚醒」などの睡眠の問題があり、それによって日中にも不調が生じる病気であると説明されています。
睡眠には個人差があり、年齢によっても変化します。そのため、睡眠時間が何時間であるのか、夜中に何回目覚めたのかということだけで、不眠症かどうかが決まるわけではありません。
不眠症について考える際には、眠ることが難しい状態に加えて、それによって日中の生活にどのような影響が生じているのかを検討することが重要です。
十分な休養が得られず疲労が続く、意欲や集中力が低下する、仕事や学校、家事など普段の生活に影響が出ている。そのような状態が続いているのであれば、「もっとよく眠れるようになるにはどうしたらよいか」ということだけではなく、なぜ眠れない状態が続いているのかについて考える必要があります。
不眠症については、以前のコラム『眠れないつらさ その1 不眠症について』でも取り上げていますので、よろしければそちらもご覧ください。
不眠症であるかどうかにかかわらず、「眠れない」ことはつらいものです
一方で、ここで大切にしておきたいことがあります。不眠症であるかどうかと、その方が「眠れない」ということによってつらさを抱えているかどうかは、必ずしも=でないことがあります。
診断として不眠症に該当するかどうか以前に、眠れない夜が続くことそのものがまずつらいことがあります。
また、「眠れない」という悩みの背景に、その方が抱えている別のつらさが存在していることもあります。
仕事がとても大変だった。学校でつらいことがあった。人間関係に悩んでいる。家庭で大きな出来事があった。将来について考えると不安になる。何かをめぐって葛藤が続いている。
そうした中で、夜になると考えが止まらなくなる。身体は疲れているのに緊張が解けない。眠ろうとしても眠ることができない。
このような場合、「不眠症なのか、そうではないのか」ということだけでは、その方が抱えている問題の全体を捉えることはできません。
「眠れない」という訴えを、その方がいまどのような状況に置かれ、何に悩み、何をつらいと思っているのかを考えていくための入り口として捉えることが必要な場合もあります。
これは、不眠症である場合にも同じようなことがいえるでしょう。
不眠症と診断され、医療機関で治療を受けられたとしても、その方が抱えている生活上の問題や心理的なつらさまで、すべて治療の中で解決するとは限らないということです。
もちろん、よく眠れるようになったことで心身の不調が改善され、現実の問題に対処しやすくなることの意義ははかりしれません。
一方、不眠症であっても、そうでなくても、「眠れない」ということによって生じているつらさや、その背景にある問題について考えていくことはできます。
雪花では、そういったことこそを大切にしたいと考えています。
ただし、「心理的な問題」とだけ決めてしまわないことも大切です
その一方で、「眠れない」という悩みの背景に心理的なつらさがあるからといって、不眠の原因も心理的なものだけであると決めることはできません。
心理的な要因があることと、それだけが不調の原因であることは、同じではありません。
厚生労働省の健康情報サイトでは、不眠の原因として、ストレスだけではなく、こころやからだの病気、薬の副作用、生活リズムの乱れ、睡眠環境など、さまざまなものが挙げられています。
たとえば、痛み、夜間頻尿、咳や発作、皮膚のかゆみなどの身体症状によって、睡眠が妨げられている場合があります。また、睡眠時無呼吸症候群など、睡眠にかかわる別の病気が背景にあることもあります。服用している薬や、アルコール、カフェインなどが睡眠に影響している場合もあります。
こうした場合には、「眠れない」という症状だけに対処するのではなく、その背景にある身体疾患などが見逃されず、必要な診断や治療につながることが大切です。厚生労働省の同サイトでも、身体の病気によって不眠が生じている場合には、不眠そのものへの対処より、その背景にある病気の治療が優先されることが示されています。
そして、このことは前回取り上げた「睡眠美容」の問題とも関係します。
前回のコラムを掲載した2026年6月24日、偶然にも同じ日に、日経メディカルでも「睡眠美容」をめぐる問題が取り上げられていました。
その記事の中で、日本睡眠学会理事長の内村直尚氏は、不眠を訴えている方が本当に不眠症なのか、その原因を十分に調べないまま、安易に睡眠薬を処方することは避けるべきであると指摘しています。
睡眠薬による治療が必要な場合にも、その方の身体の状態や疾患などを踏まえ、使用する薬によって身体の状態に悪影響が生じる可能性がないかを検討する必要があります。
つまり、当たり前のことですが、問題なのは睡眠薬の使用そのものではありません。
ですが、「眠れない」という症状だけをみて、その背景について十分に検討されないまま薬が処方されることには、リスクがあるといえるのです。
前回、「睡眠薬を美容のための商品やサービスのように扱うことに違和感がある」と述べた理由の一つが、ここにあります。
雪花で「眠れないつらさ」を考えるということ
札幌カウンセリングオフィス雪花は、医師のいない、心理専門職が運営しているカウンセリングオフィスです。臨床心理士・公認心理師が、カウンセリング・心理療法・心理相談、心理検査を用いたアセスメントを行っています。
そのような場である雪花では、不眠症であるかどうかにかかわらず、「眠れない」ということに悩み、つらさを抱えている方のご相談をお受けしています。
まず行うことは、その方がどのような状況に置かれているのか、どのようなことに悩み、何が負担となってきたのかなどの経緯を、詳細にうかがうことです。
そして、「眠れない」ということだけを切り離して考えるのではなく、生活上の出来事や人間関係、仕事、学校、家庭、不安や緊張、葛藤なども含め、現在の心身の状態とどのように関係しているのかを一緒に考えていきます。その上で、必要に応じてカウンセリングや心理療法を行います。
不眠症であるかどうかにかかわらず、その方が抱えている「眠れないつらさ」そのものは、確かに心身に存在するからです。
そして、不眠症である場合にも、医療機関で必要な治療を受けながら、生活上の問題や心理的なつらさについて、カウンセリングや心理療法の中で扱っていくことができます。
一方で、心理職としてその方の事情をうかがい、心理的な側面について考えることができたとしても、それによって身体的な問題が存在しないことが証明されるわけではありません。
そのため雪花では、心身の不調がある場合には、必要に応じて、かかりつけ医への相談や、その症状に応じた適切な診療科の受診をおすすめしています。厚生労働省の健康情報サイトでも、不眠が続く場合には、まずかかりつけ医に相談することが勧められています。
医療機関で必要な診察や治療を受けることと、カウンセリングや心理療法の中で「眠れないつらさ」や、その背景にある問題を扱うことは、どちらか一方を選ばないといけないということはありません。
医療機関での治療が必要と思われるときはそこにつながることをお手伝いし、その方が抱えているつらさについては、心理職として向き合う。雪花では、そのどちらもが大切であると考えています。
「眠れない」ことそのものが、新たなつらさになることもあります
また、最初に眠れなくなった理由とは別に、「眠れない」という経験そのものが、その後の不眠を続かせることがあります。
最初は、仕事や人間関係の悩み、大きな生活上の出来事などによって眠れなくなったとします。
しかし、それが続くと、
「今日も眠れなかったらどうしよう」
「明日も仕事なのに」
「早く眠らなければ」
というように、眠ることそのものについて不安や焦りが生じることがあります。
眠ろうとすればするほど緊張が高まり、かえって目が冴えてしまう。眠れなかったことで疲労が十分に回復せず、翌日の生活がつらくなり、「今夜こそ眠らなければ」という焦りがさらに強くなる。
また、厚生労働省の健康情報サイトでも、不眠が続くことで「不眠恐怖」が生じ、緊張や睡眠へのこだわりによって、さらに不眠が悪化するという悪循環が説明されています。
つまり、最初に不眠をもたらした問題とは別に、「眠れないことへの不安や焦り」そのものが、新たなつらさとなり、不眠を維持する要因となることがあるのです。
こうした悪循環について、その方の生活状況や心理状態とあわせて整理し、どのように対処していくのかを考えることも、カウンセリングや心理療法で扱うことのできる領域の一つです。
治療に睡眠薬が必要となる場合もあります
ここまで書いてきたことは、睡眠薬を使用せずともよい、ということを意味していません。
不眠によって十分な休養がとれず、仕事や学校、家庭生活などにも大きな影響が生じている場合、適切な診断のもとで睡眠薬を使用することが、その方の生活を支えるために必要となることがあります。
私は約20年間、精神科病院に勤務してきました。その中では、睡眠薬を含む適切な治療を受けることによって睡眠が改善し、それが日々の生活を営む助けとなる場合があることを学びました。
厚生労働省の健康情報サイトでも、睡眠薬について、医師の指導のもとで適切に使用することの重要性が説明されています。
ですから、『睡眠美容への違和感=睡眠薬そのものを問題としている』わけではありません。あくまでも、必要な方が、治療のために、適切な診断のもとで使用できることが大切です。
同時に、薬によって眠れるようになることと、その方が抱えている悩みやつらさについて考えることも、どちらか一方を選ぶものではありません。
身体の状態、生活、置かれている環境、心理的要因などを含めてその方の状態を多角的に考え、必要な治療を受けられ、支援の方針が立てられることが重要であると考えます。
おわりに
ここまで述べてきたように「眠れない」という訴えがあったとき、不眠症であるかどうかを適切に判断し、必要な医療につながることは大切です。
しかし、不眠症であるかどうかにかかわらず、「眠れない」ということによって、その方がつらさを抱えているのであれば、そのつらさは大切に扱われる必要があります。
その背景に、生活上の出来事や人間関係、仕事、学校、家庭での問題、不安や緊張、葛藤があるのであれば、それについて考えていくことも必要です。
一方で、環境因や心理的な問題があることだけをもって、「眠れないのはストレスのためだ」と判断することもできません。心身の不調がある場合には、かかりつけ医や症状に応じた適切な診療科に相談し、必要な診察や治療を受けることも大切です。
「眠れないから睡眠薬」でも、「つらいことがあるから心理的な問題」でもなく、まず、その方に何が起きているのかを考えることが必要です。
雪花では、臨床心理士・公認心理師によるカウンセリング・心理療法・心理相談を通して、「眠れない」という悩みについても、その方の置かれている状況や抱えているつらさとともに考えていきます。
次回予告
今回は、不眠症であるかどうかにかかわらず、「眠れない」というつらさそのものを大切に扱うこと、そして、その一方で心理的な問題だけに原因を求めず、必要な医療につながることの大切さについて書きました。
では、眠れない状態が続き、不眠症の可能性がある場合には、具体的にどのように対応したらよいのでしょうか。
次回は、医療機関への相談や生活の中でできることに加えて、不眠に対して心理職にできること、カウンセリングや心理療法の中でどのようなことを扱うことができるのかについて取り上げます。
参考・関連情報
- 厚生労働省「健康日本21アクション支援システム 不眠症」厚生労働省「不眠症」
- 日経メディカル「睡眠学会理事長『必要に応じて対応を検討』、SNSで話題の“睡眠美容”」
2026年6月24日
関連する雪花のコラム - 『睡眠美容という言葉に感じた違和感|睡眠薬は美容のための道具なのでしょうか』
2026年6月24日 - 『眠れないつらさ その1 不眠症について』
2023年7月15日
